同じ地球を、
20 通りに描き分ける。

球面を平面に写すとき、距離・角度・面積のすべてを同時に保つことはできない。 どの投影法も、何かを保つ代わりに何かを犠牲にしている。 以下の 20 枚の地図はすべて、同一の中間表現から対応表(LUT)のみを切り替えて生成した同じ地球である。 中心の位置は図法ごとに選んでいる——その図法が何を主張しているかによって、どこを中心に置くべきかが決まる。

グリニッジを中心とした通常のメルカトル図法。経線と緯線が直交する格子になっている。

見比べる基準として、まず見慣れた地図を置く。グリニッジ中心のメルカトル図法である。経線と緯線はまっすぐ交差し、方角が画面の上下左右と一致する。

この図では日本は右端に寄り、高緯度ほど大きく引き伸ばされる。グリーンランドがアフリカと同じくらいの大きさに見えるのは、この図法の性質による。

以下の 20 枚は、投影法と中心をそれぞれ選び直したものである。

点から測る — 方位図法5

中心の 1 点を基準にする系統。中心からの方角が正しく、中心を選び直す意味が最も大きい。以下の 4 枚は日本を中心に置いた。

正距方位図法。日本を中心に全世界が円に収まり、同心円の経緯線が広がる。

中心からの距離と方角がどちらも正しい。全世界が 1 つの円に収まり、外周は地球の裏側(対蹠点)にあたる。同心円がそのまま「日本からの距離」を表す。

ランベルト正積方位図法。日本中心の円で、外周に向かって形が潰れる。

面積の比率が正しい。外周へ向かって大陸の形は潰れるが、広さの比較に使える。

正射図法。地球儀を真横から見たような半球で、日本が中央に来る。

地球儀を遠くから眺めた姿に近い。見えるのは半球だけで、縁に近づくほど詰まって見える。

心射図法。日本中心の円で、周縁が急速に広がる。

大圏航路(最短経路)が直線になる。ただし半球すら収まらず、中心から離れると急激に引き伸ばされる。

平射図法。北極を中心に円で描かれ、日本は下側に位置する。

交わる角度が正しい(正角)。極を中心に据える使い方が定着していて、海図や気象図で見かける。この 1 枚だけ北極を中心にしている。

線から測る — 円筒図法2

1 本の基準線に沿って歪みを抑える系統。基準線を傾けられるので、任意中心と相性がよい。

メルカトル図法の軸を傾けたもの。経緯線が曲線になり、極が図の中ほどに来る。

角度が正しい(正角)。赤道ではなく任意の大円を基準線にできるため、日本の上を基準線が通るように設定できる。冒頭の基準図と同じ図法で、軸の向きだけが違う——そのぶん経緯線が曲線になる。

横メルカトル図法。基準線が子午線になり、南北に伸びる構図。

基準線を子午線(経線)に取る。南北に細長い範囲の実用図——日本の平面直角座標系もこの系統に属する。

同じ中心の動き(マドリード → 北緯 75° → 東京)を、左の斜軸メルカトル図法と右の横メルカトル図法で同時に比較する映像(77 秒・無音・日本語 / 英語字幕)。 斜軸は中心を通る大円を、横軸は中心を通る子午線を基準線に取るため、同じ中心でも経緯線の曲がり方が違う。 NASA Blue Marble / 空港の位置: Natural Earth

帯を測る — 円錐図法3

2 本の標準緯線ではさんだ帯状の領域の歪みを小さくする系統。国や大陸を 1 枚に収める用途に向く。

ランベルト正角円錐図法。扇形に開いた構図で、上部中央に穴があく。

帯の内側で角度が正しい(正角)。航空図の標準として広く使われている。

アルベルス正積円錐図法。扇形に開いた構図。

帯の内側で面積の比率が正しい(正積)。統計データを色で塗り分ける主題図によく使われる。

正距円錐図法。扇形に大きく開き、外周に沿って陸が帯状に伸びる。

経線に沿った距離が正しい。角度も面積も厳密には保たないが、帯の中では両方の歪みがほどよく収まる。

円錐 3 図法とランベルト正積方位図法を 4 面で同時に描き、EU の公式図法(ETRS89-LCC EPSG:3034 / ETRS89-LAEA EPSG:3035)がどこで効くかを見る映像(117 秒・無音・日本語 / 英語字幕)。 標準緯線(琥珀の 2 本)を 35°/65° から 40°/44° へ動かすと円錐の扇が変わる。ランベルト正角円錐は正角なので錨の近くでは形が変わらず、差は遠方に出る。 後半は 4 図法の海岸線を同じ中心・同じ縮尺で重ね、差が中心からの距離で開くこと、スペインの幅では 1 本に重なることを示したうえで、1 面でマドリードへ寄り、衛星画像 → 航空写真 → 道路 → 洪水浸水想定と層を切り替える。 衛星画像: NASA Blue Marble / 航空写真: PNOA(IGN España)/ 洪水浸水想定 T100: IDEE / MITECO / 道路: OpenStreetMap contributors / 海岸線: GSHHG

全体をならす — 擬円筒・妥協系4

距離・角度・面積のいずれかを厳密に保つことをあきらめ、世界全図としての全体のバランスや視覚的な破綻を抑える系統。 選択できるのは中央経線のみで、4 枚とも東経 140° に取っているため、太平洋が中央に配置される。

同じ中心の動きを 4 つの図法(メルカトル・モルワイデ・ヴィンケル第 3・イコールアース)で同時に比較する映像。 赤道に沿って 1 周した後、中心の緯度を北緯 30° と南緯 30° の間で上下させながらもう 1 周する。 NASA Blue Marble / 60 秒・日本語字幕
モルワイデ図法。太平洋を中心に置いた楕円の世界図。

楕円に収める正積図法。全球の分布を 1 枚で見せる図に使われる。

ヴィンケル図法。太平洋中心の丸みのある世界図。

距離・角度・面積の 3 つの歪みをバランスよく小さくする妥協案。世界地図の標準として採用例が多い。

ロビンソン図法。角の丸い長方形に近い世界図。

数式による厳密な最適化ではなく、人間の視覚的な見栄えの良さを基準に設計された図法。高緯度地方の引き伸ばしが穏やか。

イコールアース図法。モルワイデに似た輪郭で、大陸の形が素直な世界図。

面積の比率(正積)を保ったまま大陸の形を素直に見せることを狙った、比較的新しい図法。

切って開く — 中断・多面体6

平面を切り開き、つながりを一部あきらめる代わりに形と面積の歪みを小さくする系統。 地図のどこを切り開くかによって、その投影法が何を主役として見せたいかが決まる。 そのため、これら 6 枚は図法固有の標準的な配置に固定している(中心を動かすと図法の主張が失われてしまうため)。

グード・ダイマクション・ウォーターマン・ピアースの 4 図法を既定の配置から出発させ、同じ回転(経度 1 周 → 北へ 30° → 南へ 30° → 既定へ戻る)を与えた映像。 切れ目は動かず、地球だけが動く。ふだん海に隠れている切れ目を大陸が横切る様子から、既定の配置がなぜそう決められているかが見える。 NASA Blue Marble / 77 秒・日本語 / 英語字幕
グード図法。海側で 4 つに切り開かれた花弁状の世界図。

海側で切り開いて陸の形と面積比を保つ。大陸が主役で、海はつながりを失う。

八面体バタフライ図法。左右 2 枚の翼に分かれた構図。

正八面体に貼って開く。蝶の翼のように左右へ展開し、切れ目が海に落ちる。

ダイマクション図法。三角形をつなげた帯状の世界図。

正二十面体に貼って開く。上下の向きを主張しない展開図で、世界中の陸地が 1 本の連なりに見える。

ウォーターマン図法。多角形の面を放射状につなげた世界図。

八面体系の展開図を精密化した図法。切れ目を海に落として大陸を分断せず、ダイマクションより大陸の向きが見慣れた配置に近い。

ピアース図法。正方形に収まり、四隅へ向かって切れ目が入る世界図。

全世界を正方形に収める。交わる角度が正しく(正角)、切れ目は 4 本の子午線に沿って入る。

スピルハウス図法。中央が南極で、暗い海が一続きにつながって見える世界図。

海を主役に置く図法。切れ目をすべて陸地に落とすので、世界の海洋が 1 つのつながりとして見える。中央は南極で、外周を陸地が囲む。

作例 — 多面体の面をまたぐ

切り開いた図法であっても、面の切れ目をまたいで同じ層が正しく乗る。

ダイマクション図法の展開図に衛星画像を貼り、航空機の位置を橙の点で重ねた図。面の境をまたいで点が続いている。
ダイマクション図法の展開面に衛星画像を貼り、ある時点の航空機の位置を重ねたもの。 多面体の図法でも、面の境目をまたいで移動体の点が途切れずに続く。展開図を正方形の枠に収めているため、南極側の面が一部枠の外に出ている。 衛星画像: NASA Blue Marble / 航空機の位置情報: OpenSky Network(2026-10-15 09:51 UTC の記録)